KIKORI

私達はRainbowをしっている

女は40代で本当の友達になる

30分話せば、大体その人がどんな人か分かる、と思っていた。その人の雰囲気や、言葉と言葉の「間」、目力というのも感情によって微妙に変わる。人間の本能的な観察力は結構鋭く、質問に対して、その人の返答が今パッと浮かび上がったものか、その人が積んだ経験の中で生まれた当人にとっての真実なのかまで、読めてしまうものだから、「いいかげんな人」「真面目な人」「意地悪な人」「正直な人」とすぐ判断し、少ない自分の引き出しのどれかにふり分けていた。

東京に住んでいた頃の友人がイタリアに会いに来てくれ、15年間一度も連絡を取り合ったことがないのに、いきなり家に泊まることになり、少し不安でもあったけど、子育終了ほやほやの少し気力がない今の私にとって、スパイスになるかもしれないと、楽しみでもあった。

彼女は「おおざっぱで熱しやすく冷めやすい落ち着きのない人」のカテゴリーに入っていた。4つ年上の彼女は15年経っても変わらないな、と電話で話した時に思ったのは「実はダブル不倫して、バレて離婚して、で、その不倫相手と再婚したの!」と彼女らしいイントロだったから。

久しぶりに会い、見た目はあまり変わっていなく、おおざっぱなところも全然変わっていなかった。開けたスーツケースの中があまりにもぐちゃぐちゃだったこと。洗面所にバラバラに並べられた化粧品は蓋が全部開いていたこと。インスタントコーヒーはスプーンではなく、片手で瓶を振ってドバっと入れるところ。

「胃に炎症がおきちゃってね、ヘビーなものとか、脂っこいものは食べれないの。」と薬を飲みながら、量を食べないだけで、チーズやカラマリフライ、スープにはたっぷりチリソースを入れ、「お腹空いた」と言って夜中でもそれらのものを食べて、欲のまま行動する。

散歩して帰ってきたら「昼寝」と部屋に入り、起きてきたと思ったら「お腹空いていない」とパジャマに着替えちゃい、ソファーでそのまま話していたら夜10時頃いきなり「ヨガしないと」とウェアに着替え、たった3分しただけで、またパジャマに着替えなおし。

こんな感じできっと旦那に飽きて、浮気して、盛り上がり、両家庭の計6人の子供達を傷つけてまで、再婚したのだろう。で、今また「なんか冷めてきちゃって」と言うから、3日間朝方の4時ごろまで弾丸トークをした。

でもなぜか「とんでもない女だ」と、どうしても思えなかったのは、悪意も下心も残酷さもないからだ。背が170㎝以上で、ガタイがいいから、オヤジ化したように見える時も多いけど、愛らしい笑顔で、品のあるシルクのブラウスを着たり、まつエクもして、必ずヒールのある靴を履く。

色々話を聞くと、寂しがり?!だったらただのワガママだよね、と思うけど、「寂しいには必ず原因があるよね」と、彼女は遠くを見て言った。

再婚相手の国に引っ越したけど、4年経った今でもコミュニティーには完全に受け入れてもらえず、道のど真ん中でも、彼の元妻や義理の子供達に罵声を浴びさせられ、彼女は何も言わず耐えているらしい。

「しょうがないだろ」と、かばう気がない彼、増えてきた彼の嘘、それがバレた時のずるい逃げ方、仕事を言い訳に家に帰ってこなくなったことが、彼女をどんどん孤独にした。

彼女の元夫は私も会ったことあるが、真面目で、優しく、責任感がある人。面白味に欠けるけど、申し分ない。彼との結婚生活を守ろうと10年もかけたらしく、人一倍努力や我慢をしているのに、なぜ軽々しく話、誤解されるような言い方をわざとするのだろう、と不思議でしょうがなかったが、最後の夜、ピッチ早くワイン飲みながら「私、ちょっと前に再婚相手と幸せじゃないことを元夫に話したの。元夫はそれを聞いて本当に私に失望して。私、間違えちゃった。」と言った。

「あんな騒ぎになって、たくさんの人を傷つけたから、絶対にこの再婚をうまくいかせなきゃいけない、って思っているの。でも、一緒にいるともう終わっちゃいそうで、だからこうやってイタリアに来た。」と、話している最中に「君を幸せにする自信が僕にはもうない」と再婚相手からメッセージが届いた。彼女はそれがくることを、分かっていたようにも見えた。

彼女のお母さんが亡くなった事も軽々しく「ま、病気だったからね」と話していたけど、「母が亡くなった時ね、私家族にも誰にも言ってないのだけど」と、亡くなる2分前、お母さんと交わした大切な言葉をおしえてくれた。

彼女は泣かない。動揺さえもみせない。でもそれは強さでも、鈍感なわけでもなく、誰よりも繊細で折れやすい自分の心を守るために、だめな母親を装って、恋多き女を演じ、がさつなふりをして、誰にも気づかれないよう、何十年も固くガードをしていたのだ。

私は間違えていた。30分ではその人の長年のカモフラージュを解くことなんてできない。偉そうにラベルを貼ることなんてできない。そしてアラフィフにもなると、色々な想いの複雑さに、全てを友達とシェアしなくなるから、かけてもらう言葉もかけてあげる言葉も、ベタベタしなくなる。

彼女を見送った時「ゆっくりね」と偶然にも互いにかけた言葉が同じで。でもそれは、自分で切り拓いていかなきゃいけないんだぞ、という厳しいメッセージであることを互いに知っている。

寂しいとゆう感情、べつに嫌いではない。なぜかというと、それだけ特別な時間を過ごせたということだから。

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またね