KIKORI

私達はRainbowをしっている

永遠に残るもの

少し前まで、人が亡くなると、私はひどく落ち込んだ。ずっと病気だった、という人でも、私にとっては、「生きている」から「死んだ」になり、突然だった、と毎回感じるからだ。

ここ4日ぐらいの間に、二人が亡くなり、人生や命の儚ささえも感じてしまう。

1年ほど前に、同じフロアに住む4人家族の旦那さんが、いつもは明るく駆け足で階段を下るのだが、少し無表情だったので、ジョギングから戻って階段を駆け上がっていた私は「元気?」と声をかけた。

「実は妻に脳腫瘍がみつかり、これから治療していかなきゃいけないのだけど、でも大丈夫そうだから、パラッゾ(ビル)のみんなには言わないでくれ。」と言われた。

夫婦で会計事務所を経営している、イタリア人にしては時間を守る、真面目な夫婦で、子供は二人、10年前に会ったとき、男の子は4歳、女の子はまだ2歳だった。外国人の私が娘と二人きりで住んでいるということで、はじめは一人で変えられなかった電球や、トイレの故障など、この旦那さんが色々助けてくれた。

医療で病気を治すことは、不可能ではない時代だから、仕事を休まなくてはいけないし、元気に復帰するのも大変だろうな、ぐらいに思っていて、旦那さんも会えば「まぁまぁ元気」という感じで、むしろ、息子が、よくお手伝いする姿をみかけ、微笑ましく、全てが回復へと向かっていると思っていた。

そのまた半年後の夏休み、久しぶりに会った奥さんは車いすになっていて、やせ細っていたが、奥さんの姉が「大丈夫」とウィンクしたから、辛い治療がやっと始まったのか、と思っていたが、またその1か月後、その姉とエレベーターで会ったら、「Non va(良くない)」と言い、その一言は、イタリアに10年住んで聞いたことがない、凍るような響きだった。

そして先週ジョギングで階段を駆け上がる私。階段を下る旦那さん。「どう?」と聞いたら頭を横に振って、「昨日亡くなった」と言い、私はとっさに彼を力強く抱き締めた。

次の日14歳の息子は、お母さんが使っていた車いすやベッドを外に運ぶのに、大人の男たちに交じって、手伝っていて、私に気づいた彼は「良い一日を」といつものように言ったが、私はどんな言葉をかけて良いのか分からず、黙ってしまう。又、12歳の娘は「Mamma!」と何度も何度もお母さんを呼びながら泣き叫んでいて、パラッゾ中にその悲しみの声は響いていて、心を締め付けられた。

一番印象に残ったのは、あの甘えん坊でワガママだった14歳の息子が、ものすごくしっかりしていたのと、その横顔がとてつもなく凛々しく、母の愛を彼に預けたのではないか、と感じるほど、神々しく美しかったこと。

そして昨日娘から連絡があり、大学でお友達になった男の子が昨日亡くなった、と。大学のHomecomingで、学生達は寮の色々なところでパーティーを開き、お酒も飲むから当然酔っ払う子も出てくる。夜中12時過ぎ「音がうるさい」とクレームが入り、大学の警備員がその寮の部屋をノックすると、その亡くなった男の子はトイレに隠れたという。

本来は自分の部屋以外の出入りは禁止されていて、見つかった場合、寮を追い出されるというしくみになっており、8階のトイレからその子は飛び降りたらしい。その夜は怪我だけで状態は落ち着いていたらしいが、朝、息をひきとった。

娘の大学は、少し勉強したぐらいで進学できるレベルの大学ではない。またアメリカの良い大学というのは、勉強の成績だけではなく、スポーツ、芸術、チャリティー、生徒会など、全ての分野で優れていることを求められ、試験で良い結果を出せば認められるという、シンプルなシステムでもない。

ハイスクール4年間の全ての成績や行い、人間性などが問われる。勉強できるだけではなく、頭も心も良くないといけないのだ。この男の子は親とも仲が良く、大学始まって4週間ぐらいですでに人気者になっていた。

彼はたしかに酔っ払っていた。そこに警備員がきて、見つかって追い出されちゃ困る。逃げる目的で、窓から飛び降りたのだろう、と彼の友人達は言っている。それが8階だったという不運なのだろうか。

初めての中間試験も終わり、私だって娘にリラックスして楽しむことをすすめた。彼の親はやりきれない気持ちだろう。考えただけで胸が苦しくなる。やっとの思いで入れた大学。大学生活始まってたった4週間。私もそうだが、彼らの新生活も落ち着いてきて、親としてもホッとしているタイミングだったはずだ。

混乱し、悲しみで目が腫れている娘と、話を聞いて心配する息子に話しをした。「人生に感謝して、自分たちの夢に向かって頑張っていこう。楽しむことも、リラックスすることも絶対大切だから。でもね、安全、健康であることぐらいの責任は自分たちでとろう。」と。

今でも人が亡くなると私は、落ち込まないわけではない。でも、人間にとって不可能なことはたった一つだけで、死んだ人を生き返らせることだけは絶対にできない。早すぎる奥さんの死。若すぎる学生の死。心が美しく、眩しいぐらいに輝いた彼らを失うのは、この世にとって残念という言葉ではすまない。

でもだから、自分を大切に、自分に正直に、余計なノイズはきりすてて、愛と健康に感謝をし、今日のベストを丁寧にやりきって、喜怒哀楽激しくても、いいと思う。そうやって人生を生ききりたい。

Rest in peace, beautiful soul and spirit. 

そして彼らの家族の悲しみが少しでも早く癒されるよう、できる限りの愛と光を送りたい。

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牡羊座の満月